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【理念】「飯、行こうや。」 〜その一言から始まった〜




「飯、行こうや。」

今でも、あの何気ない一言を思い出すことがあります。

たったそれだけの言葉でした。


でも、あの一言がなかったら、今の私はここにいなかったかもしれません。

私は子どもの頃、アトピー性皮膚炎がひどく、思うように外で遊ぶことができませんでした。


みんなが校庭を走り回る中、私は教室にいる。

プールも見学。


「なんで自分だけなんだろう。」


そんな悔しさを何度も味わいました。

ようやく少し落ち着いたと思ったら、今度は勉強についていけませんでした。


漢字を何百回書いても覚えられない。

アルファベットも覚えられない。

人より努力しているつもりなのに、結果だけがついてこない。


「サボっている。」

そう思われ、居残りをさせられることもありました。

子どもながらに、「なんでこんなに頑張っているのに」と、先生を恨んだこともあります。



そんな私を救ってくれたのが、長距離走でした。

担任の先生が声をかけてくれました。


走ることだけは認めてもらえた。

「ここなら自分にも居場所がある。」

そう思えました。



そして私は、本気で箱根駅伝を目指しました。

走ることだけが、自分の存在価値のように思えていました。

しかし、その夢は叶いませんでした。


大学二年生。


駅伝部には規定のタイムがあり、それを突破できなければ寮を出て、自分で下宿生活を送ることになります。



私は二軍になりました。


朝は一人で起きて練習へ行く。

授業へ行く。

昼を食べる。

午後も練習。

帰ってきて、自分でご飯を作る。

風呂に入り、寝る。

そしてまた朝が来る。

その繰り返しでした。

私は焦っていました。

もっと走れば速くなる。

もっと追い込めば変われる。

そう信じて走り続けました。

でも、走っても走っても記録は伸びませんでした。

無理を重ねて肉離れもしました。


その頃からでしょうか。

夜、眠れなくなりました。

布団に入っても眠れない。

朝は起きるのがつらい。

「体調が悪い」と言い訳をして練習を休む日もありました。


それまで人生を懸けて積み上げてきたものが、音を立てて崩れていくようでした。


「もう終わった。」


そんなことばかり考えていました。

そんなある日でした。

仲間が何気なく言いました。


「飯、行こうや。」


たぶん、本当に何気なく。

励ますつもりもなかったと思います。


何か特別な言葉をかけようとしたわけでもありません。

ただ、一緒にご飯を食べよう。

それだけでした。


それから私は、仲間と過ごす時間が少しずつ増えていきました。

みんなで鍋を囲む。

大きなフライパンで肉を焼く。

30キロ走ったあと、喉をカラカラにしながら居酒屋へ行く。

花火をする。

くだらない話をして笑う。

また翌朝、一緒に練習へ行く。

「じゃあ、また明日な。」

「今度はどこ集合?」

「また飯行こうや。」

そんな毎日でした。



今思えば、お酒がおいしかったわけでも、鍋がおいしかったわけでもありません。

一緒にいる時間が、何より心地よかった。



私は、一人で戦っているんじゃなかった。

そう思えたんです。


あの頃を振り返ると、不思議なことがあります。

誰も私を励ましてはいませんでした。


「頑張れ。」

とも言われませんでした。


「もっとこうしたらいい。」

というアドバイスもありませんでした。


でも、私は確かに救われました。

なぜだったんだろう。


最近になって、その理由が少しだけ分かった気がします。

仲間は、私を変えようとしなかった。


ただ、一緒にいてくれた。



走れなくても。

落ち込んでいても。

何もできなくても。

「飯、行こうや。」

その一言の中には、

「お前はここにいていい。」

という言葉にならないメッセージがあったように思います。



医療メンター協会を立ち上げてから、私はずっとコミュニケーションを考えてきました。

声のかけ方。

聴き方。

関わり方。

いろいろ学び、現場でも試してきました。



でも最近、ようやく気づいたことがあります。


私が本当に作りたかったのは、コミュニケーション技術ではありませんでした。


人が、

「ここにいていい。」

そう感じられる関係でした。


誰かが自分を変えてくれるわけではない。

問題を解決してくれるわけでもない。


それでも、


一緒にご飯を食べてくれる人がいる。

笑い合える人がいる。

また明日も会おうと言ってくれる人がいる。


その関係が、人をもう一度立ち上がらせることがある。


私は、そのことを自分の人生で教えてもらいました。


だから今度は、私の番だと思っています。


患者さんにも。

新人看護師にも。

一緒に働く仲間にも。


「ここにいていい。」

そう感じられる関わりを、一つずつ受け継いでいきたい。


医療メンター協会で本当に育てたいものは、コミュニケーションの技術ではありません。

人と人との間に流れる、迎え入れられる感覚です。



あの日、仲間が何気なくくれた「飯、行こうや。」という一言のように。

その温かさが、人から人へ受け継がれていく。

私は、そんな医療をこれからも目指していきたいと思っています。

 
 
 

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