【理念】「飯、行こうや。」 〜その一言から始まった〜
- 達也 早崎
- 7月15日
- 読了時間: 4分

「飯、行こうや。」
今でも、あの何気ない一言を思い出すことがあります。
たったそれだけの言葉でした。
でも、あの一言がなかったら、今の私はここにいなかったかもしれません。
私は子どもの頃、アトピー性皮膚炎がひどく、思うように外で遊ぶことができませんでした。
みんなが校庭を走り回る中、私は教室にいる。
プールも見学。
「なんで自分だけなんだろう。」
そんな悔しさを何度も味わいました。
ようやく少し落ち着いたと思ったら、今度は勉強についていけませんでした。
漢字を何百回書いても覚えられない。
アルファベットも覚えられない。
人より努力しているつもりなのに、結果だけがついてこない。
「サボっている。」
そう思われ、居残りをさせられることもありました。
子どもながらに、「なんでこんなに頑張っているのに」と、先生を恨んだこともあります。
そんな私を救ってくれたのが、長距離走でした。
担任の先生が声をかけてくれました。
走ることだけは認めてもらえた。
「ここなら自分にも居場所がある。」
そう思えました。
そして私は、本気で箱根駅伝を目指しました。
走ることだけが、自分の存在価値のように思えていました。
しかし、その夢は叶いませんでした。
大学二年生。
駅伝部には規定のタイムがあり、それを突破できなければ寮を出て、自分で下宿生活を送ることになります。
私は二軍になりました。
朝は一人で起きて練習へ行く。
授業へ行く。
昼を食べる。
午後も練習。
帰ってきて、自分でご飯を作る。
風呂に入り、寝る。
そしてまた朝が来る。
その繰り返しでした。
私は焦っていました。
もっと走れば速くなる。
もっと追い込めば変われる。
そう信じて走り続けました。
でも、走っても走っても記録は伸びませんでした。
無理を重ねて肉離れもしました。
その頃からでしょうか。
夜、眠れなくなりました。
布団に入っても眠れない。
朝は起きるのがつらい。
「体調が悪い」と言い訳をして練習を休む日もありました。
それまで人生を懸けて積み上げてきたものが、音を立てて崩れていくようでした。
「もう終わった。」
そんなことばかり考えていました。
そんなある日でした。
仲間が何気なく言いました。
「飯、行こうや。」
たぶん、本当に何気なく。
励ますつもりもなかったと思います。
何か特別な言葉をかけようとしたわけでもありません。
ただ、一緒にご飯を食べよう。
それだけでした。
それから私は、仲間と過ごす時間が少しずつ増えていきました。
みんなで鍋を囲む。
大きなフライパンで肉を焼く。
30キロ走ったあと、喉をカラカラにしながら居酒屋へ行く。
花火をする。
くだらない話をして笑う。
また翌朝、一緒に練習へ行く。
「じゃあ、また明日な。」
「今度はどこ集合?」
「また飯行こうや。」
そんな毎日でした。
今思えば、お酒がおいしかったわけでも、鍋がおいしかったわけでもありません。
一緒にいる時間が、何より心地よかった。
私は、一人で戦っているんじゃなかった。
そう思えたんです。
あの頃を振り返ると、不思議なことがあります。
誰も私を励ましてはいませんでした。
「頑張れ。」
とも言われませんでした。
「もっとこうしたらいい。」
というアドバイスもありませんでした。
でも、私は確かに救われました。
なぜだったんだろう。
最近になって、その理由が少しだけ分かった気がします。
仲間は、私を変えようとしなかった。
ただ、一緒にいてくれた。
走れなくても。
落ち込んでいても。
何もできなくても。
「飯、行こうや。」
その一言の中には、
「お前はここにいていい。」
という言葉にならないメッセージがあったように思います。
医療メンター協会を立ち上げてから、私はずっとコミュニケーションを考えてきました。
声のかけ方。
聴き方。
関わり方。
いろいろ学び、現場でも試してきました。
でも最近、ようやく気づいたことがあります。
私が本当に作りたかったのは、コミュニケーション技術ではありませんでした。
人が、
「ここにいていい。」
そう感じられる関係でした。
誰かが自分を変えてくれるわけではない。
問題を解決してくれるわけでもない。
それでも、
一緒にご飯を食べてくれる人がいる。
笑い合える人がいる。
また明日も会おうと言ってくれる人がいる。
その関係が、人をもう一度立ち上がらせることがある。
私は、そのことを自分の人生で教えてもらいました。
だから今度は、私の番だと思っています。
患者さんにも。
新人看護師にも。
一緒に働く仲間にも。
「ここにいていい。」
そう感じられる関わりを、一つずつ受け継いでいきたい。
医療メンター協会で本当に育てたいものは、コミュニケーションの技術ではありません。
人と人との間に流れる、迎え入れられる感覚です。
あの日、仲間が何気なくくれた「飯、行こうや。」という一言のように。
その温かさが、人から人へ受け継がれていく。
私は、そんな医療をこれからも目指していきたいと思っています。



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